「………あ、そうだ」
溜まり場への帰り道、ふと何かを思い出したように私を振り返った桃華さん。
夕暮れに近い陽光が、彼女の横顔を淡く照らしている。
「どうしました?」
「あの……聞いていいのかよくわからないけど、由良くんは、どうして顔を隠していていたの……?絶対素の方がいいと思うんだけど……」
あー、やっぱりそこに来るよね。
潜入当初の私は、目立たないよう、そして身元を隠すために。
野暮ったい変装と前髪で顔を半分以上隠していた。
「あー、その件なんですけど……」
「…………?」
「桃華さん、僕が桃華さんの気持ちを黙っている代わりに、桃華さんも僕の秘密、黙っていてくれませんか?」
「私、が……?」
「詳しくは言えないんですけど、僕、昔容姿のせいでひどい目にあって。……それ以降、顔を隠して生活していたんです」
嘘。……けれど、真実を混ぜた嘘。
「そう、なんだ………」
「知っているかもしれませんが僕はつい最近、ここら辺に引っ越してきました。なので、僕の素顔を知っているのは現状桃華さんだけです。」
「…………」
「なので、できるだけ黙ってもらえると、ありがたいんですけど………」
ジッと、彼女の桃色の瞳を見つめる。
瞳孔の開き、心拍の上昇、わずかな視線の揺らぎ──すべてを観察し、彼女の良心に深く楔を打ち込む。
「う、うん………わかった。私だけの秘密、だね」
「本当ですか?……ありがとうございますっ」
私は、最高に無垢な少年のような笑顔を作った。
”秘密の共有”。
………それは、相手を縛り付けるのに一番有効な手立てだ。
本来なら、情報を聞き出したり、裏切りを防止したりするために使う冷徹な手口。
けれど今回ばかりは、少し用途が違う。
これで、私は”彼女だけの特別”になれた。
レンさえ知らない私の一面を彼女が握っているという優越感が、彼女を私に依存させる。
……これでいい。
少しでも彼女の近くにいて、確実に守り抜くために。
私は、自分の顔さえも駒の一つとして、盤上に並べた。

