「ダメ………?」
ひやり、と背中を嫌な予感がつたう。
……まさか、私の正体に勘づいた?
「……………要するに、桃華さんを好きになるな、ってことです」
李兎が呆れたように補足した。
「えっ、あっ、僕はただ、橘花さんを人として気になるっていう意味で………」
慌ててそう付け足すと、あからさまに安心した様子のレンさんと李兎。
……この過保護な兄たちは。
思わず肩の力が抜けてしまう。
「え、じゃあ逆に蓮さんと李兎は、橘花さんのこと、どう思って…………」
「…………私は桃華さんのこと、妹のような存在だと思っています。"幼なじみ"や"姫"というよりは、"妹"って感じですね」
妹、か………
李兎らしい、理性的で落ち着いた返答だ。
そこに歪な感情は見当たらない。
ただ純粋に、長年そばにいた大切な存在を慈しんでいるような………。
「俺、は…………わからない」
ゆっくりと、レンさんの口が動く。
その声は、いつもの総長としての威厳を脱ぎ捨てた、一人の少年としての迷いに満ちていた。
「わからない……?」
「もしかしたら、ひとりの女として好きなのかもしれないし………それは"姫"や"幼なじみ"としての感情なのかもしれない。」
「……………」
………”月華”の頂点に立つ男が、これほどまでに脆い独白を漏らすなんて。
私は言葉を失い、ただ彼の横顔を見つめることしかできなかった。
「でも……俺の人生は、桃華のモノだから……桃華の望むことは、なるべく叶えてやりたい」
諦めとは少し違う、どこか遠くを見ているような悲しげな瞳。
そこにあるのは、自己犠牲なんて綺麗な言葉では片付けられない、執着にも似た深い献身だった。


