「………そういえば、姫……橘花さんはここに来ないんですか………?」
話題を転換するように、”まさに今思い出した”ような感じを装って、口を開く。
私が一番気になっているのはそこ。
"姫"なんて呼ばれるくらいだから、もっと頻繁に顔を出すものだと思っていたのに。
…………私が仲間になってからの一週間、その姿を一度も見かけなかった。
「桃華さんは、立場上、色々と難しいですからね。予定もそうですし、なにより両親が私たちのことをあまりよく思っていないようですから」
李兎が淡々と説明する。
………なるほど、確かに生粋のお嬢様が暴走族に関わるのを喜ぶ親なんていないか。
まあ、普段は"ソッチ"側……財閥の護衛なんかが付いているんだろうし、そこまで私が警戒する必要はないよね。
「それに………まあ、少し変な言い方になってしまいますけど、姫は敵にとって絶好の獲物ですから。家の方にいてもらったほうが安全だと、私たちが判断しました」
「なるほど…………じゃあ、桃華さんはしばらく来ないんですね」
納得はできる。
……けれど、私の本来の護衛対象は彼女だ。
彼女がここに現れないことには、私の任務は一歩も先へ進まない。
「お前、桃華のこと、気になんの?」
ジッと、ソファに横になったままのレンさんが、深緑色の瞳に私を映した。
「え、あ、いや………」
焦りを見せないよう、私は努めて無垢な少年の顔を保つ。
……けれど、レンさんはどこか不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「………先に言っておくが、アイツはダメだ」
低い、釘を刺すような声。
───その響きには、妹を大切に想う兄の情愛以上の、何かもっと重苦しい影が混じっているように聞こえた。


