──地上までかなりの高さがある。
護衛対象がこんなところから転落したら、それこそ洒落にならない。
「でもっ、蓮くんが……っ!!」
私の腕の中で必死に身をよじる彼女の視線の先──校庭の片隅では、息を呑むほど絶望的な光景が繰り広げられていた。
階下から響き渡る無数の怒号と、それに応えるように激しく身をよじる彼女。
───その折れそうなほど細い腰を、私は背後から必死に引き戻す。
(まずい……。)
この子は今、自分がここから転落して死ぬかもしれないことなんて、一ミリも考えていない。
このまま階下の戦場へ行かせれば、命を落とすか、あるいは敵チームの絶好の人質になるのが目に見えている。
(ここでターゲットを失えば、任務失敗だ──)
脳裏をよぎる最悪の結末に、私の内側でじりじりとした焦燥感が広がっていく。
力ずくで彼女を完全に押さえつけること自体は、とても容易なことだ。
……けれど、腕の中で暴れる彼女の全身から伝わってくるのは、物理的な拘束なんて力任せに突き破りそうなほどに熱く、必死な鼓動だった。
どうすればいい?
どんな言葉を投げれば、この狂乱状態の足を止められる?
冷徹な仮面の裏で、私は必死に、彼女の心を一撃で射抜くための言葉の"弾丸"を探し求め──。
一番残酷で………けれど、今の彼女をこの場に縛り付けるのに、最も有効な一言を喉の奥から絞り出した。



