君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~


「………わかりました。みなさんが、本当にそれでいいなら。」


私は一度、困ったように眉を下げ、それから小さく頷いた。
まるで、熱意に負けて渋々承諾した、気の弱い少年そのものの演技で。


「………本当か?」


レンさんの声が、わずかに弾んだ。

期待なんてしていなかったはずなのに、その安堵したような響きに、胸の奥がチリりと焼ける。



「何度も言いますけど、僕ほんとケンカできないので、足手まといになっちゃうかもですけど……」

「ああ、お前が仲間になってくれるなら、それでいい。……………元はと言えば、俺たちが原因だしな」


レンさんは壁から背を離し、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。

………その足取りは、どこか確信に満ちていた。


「…………じゃあ」

「決まりだなっ!!!!」









「今更だけどさー、由良って何年?」


裕太がベッドの脇でひょいと首を傾げる。

……ほんとに、今更。

さっきまで散々「仲間だ」と盛り上がっておいて、基礎情報の確認すら後回しだったらしい。


「二年、です」

「じゃあタメじゃん。敬語じゃなくていーよ」

「え、でも………」



「僕たちも"由良"って呼ぶし、由良も僕たちのこと、呼び捨てで呼んでよ」

「私からもお願いします。同年代に敬語を使われるのは、気が引けます」

「それに、仲間なのに敬語だとなんか距離感じるしな!!」


畳みかけられるフレンドリーな圧力。

さすがにこの屈託のなさを見た後だと、断りにくいなぁ………


「え、あ、じゃあ………」

「ほら、呼んでみー?」


裕太さんがニヤニヤしながら顔を近づけてくる。

私は一つ、深呼吸をして、喉に詰まった偽りの壁を飲み込んだ。



「………裕太、李兎、陽人、太晴………蓮、さん………?」

「おい、なんで俺だけ"さん"付けなんだよ」


レンが露骨に眉を寄せ、不満げな声を上げた。



「え、なんとなく………?」

「ははっ、蓮、怖がられてるー」

「おい、裕太、テメェ………」


騒がしく笑い合う彼らの中心で、私は少しだけ肩の力を抜いた。

……”椎名由良”として。
この歪な日常に、私は今、完全に足を踏み入れた。









"月華"

暴走族、不良集団。


世間が眉をひそめるその名前は、今この瞬間から、私の新しい”居場所”になった。


みんな仲良くて、明るくて………私なんかがいていい場所じゃないけど。



………少しだけ、本当に少しだけ、寂しかった心が満たされた気がした。




私は隣で不機嫌そうに、けれどどこか嬉しそうに裕太とやり合っているレンさんの横顔を、静かに見つめた。

この温もりが消えてしまうその時まで、今はただ、「由良」としてここにいよう。
────そう自分に言い聞かせながら。