息を呑むような暴力の気配もなければ、怯えるような恐怖も湧いてこない。
ただただ綺麗で、落ち着いた部屋。
……だけど、だからこそ──背筋にまとわりつくような、奇妙な違和感が拭えなかった。
俺たちが生きる街のすぐ隣に、こんなにも平然と、綺麗な顔をした『闇』が存在している。
そのあまりの「普通さ」が、逆に底知れない不気味さを醸し出していた。
──── そして、ソファに座る男が視界に入った瞬間、俺はさらに拍子抜けした。
(こいつが……"サクヤ"……?)
裏社会のトップである組織を牛耳るボス──そんな俺の勝手な警戒は、一瞬で宙に浮いて消えた。
……そこにいたのは、俺たちとそう歳の変わらない、同い年くらいの男。
クリーム色のカーディガンに、デニムというカジュアルな服を着こなした、モデルのように整った顔立ち。
見る者を安心させるような穏やかなタレ目と、色素の薄いサラサラとした髪が印象的だ。
……中性的な、どこか儚げな美しさすらある。
裏社会の冷酷さや、暴力の気配なんてこれっぽっちも感じさせない、ただの優しいイケメン───そう、思った。
男は俺たちに気づくと、ふわりと優しく、けれどどこか不敵な笑みを口元に浮かべた。
「──久しぶり、いや、ここはおかえりっていうべきかな。……由良、元気にしてた?」
まるで、最初からすべてを知っていたかのような、余裕に満ちた眼差し。



