────あいつは、痛みに顔を歪めてなんていなかった。
それどころか、最初からこうなることを知っていたかのような、冷え切った、底の知れない笑みを浮かべていたんだ。
(……わざと、今の攻撃をくらったのか……?)
由良の実力なら、今の一撃なんてなんなくかわせたはずだ。
あえて攻撃を受けることで、自分の「覚悟」を組織の奥にいる存在へ見せつけた──そんな確信が、俺の背筋をゾクリと震わせる。
そして────。
由良は俺にも、目の前の黒スーツの男たちにも目もくれず、エントランスの隅に設置された防犯カメラを真っ直ぐに見上げた。
────レンズの奥にいる、この事態を特等席で眺めているであろう『誰か』を、射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつける。
「見てるんでしょ、朔夜(さくや)」
……冷たく、ドスの利いた声がエントランス内に響き渡った。
「──さっさと開けて」
感情の一切を排した由良のその一言は、黒スーツの男たちの動きを完全に硬直させた。
由良の口から出たその『名』が、この組織においてどれほど絶対的な意味を持つのか、見張りの怯えきった表情がすべてを物語っていた。
じり、と自動ドアの奥から、何かが動き出す重苦しい気配が漂い始める────……。



