「……っ、なんでお前がそんなこと知ってるんだよ。由良、お前──」
「俺が昔、ここの人間だったから」
「─────は?」
由良はゆっくりと俺に視線を戻すと、突き放すような、どこか哀しげな瞳で俺を見据えた。
────あいつの纏う空気そのものが、一瞬にして俺たちの手の届かない『裏社会の人間』のそれへと変わっていく。
「だから言ったんだよ。……お前らみたいな奴は、来ない方がいいって」
そう言い残すと、由良は俺が引き止める間もなく、すたすたとエントランスへ向かって歩き出してしまった。
高級ホテルのような自動ドアの前には、体格のいい黒スーツの男たちが二人がかりで目を光らせている。
────俺たちみたいなガキが近づけば、一瞬で取り押さえられるか、警察に通報されるのがオチだ。
「おい、由良! 待てって……っ!」
焦った俺は慌ててあいつを追いかけようとしたが、由良は何の怯えも躊躇もなく、真っ直ぐに見張りの男たちの前まで進み出た。
男たちは一瞬、不審者を見るような鋭い視線を由良に向けた。
……しかし、由良がそのうちの一人の耳元へ顔を寄せ、俺に聞こえるか聞こえないほどの小さな声で何かを短く呟いた──その瞬間。
見張りの男の目が見開かれた。
その顔に明らかな驚愕と、どこか深い畏怖の色が浮かぶ。



