誰も何も言えないまま、部屋の空気が張り詰めていく────……。
「……由衣だってきっとそれを望んでる」
ぽつり、と。
由良はどこか自分自身に言い聞かせるようにそう呟くと、掴んでいた湊の胸ぐらからゆっくりと手を離した。
……壁に背を預けたまま、湊は苦しそうにゲホゲホと激しく咳き込み、赤くなった首元を手で押さえる。
由良はそんな湊を一瞥もせず、ただ視線を床に落としたまま動かない。
部屋の中に、なんとも言えない微妙な空気が流れ始めた。
誰も次の言葉を紡げない。
由良の突き放すような優しさと、由衣の想い。
それを突きつけられた俺は、怒ることも、かと言って納得することもできず、ただ拳を握りしめたまま立ち尽くすしかなかった────。
時計の秒針が刻む音だけが、やけに大きく室内へと響き渡っている。
そして────その沈黙を破ったのは、低く、痛々しそうに喉を鳴らした湊だった。
「ゲホッ……はぁ、マジで死ぬかと思った……。相変わらず手加減ってものを知らないよねぇ、由良は」
湊は赤くなった首元をさすりながら、乱れた服の襟元をゆっくりと整える。
────さっきまで冷や汗を流していたはずなのに、その口元には、もういつもの飄々とした笑みが戻っていた。



