君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



「……まあ、選択としては間違ってないよ。むしろ、由良は最善を尽くしたんだ」

「──え?」


あいつが最善を尽くした?
裏切って連れ去ったことが、最善だっていうのか?



わけが分からず問い詰めようとした俺の前で、湊はそれまでの張り詰めた空気を一瞬でかき消すように、いつもの軽い笑みを浮かべて首をすくめた。



「あーあ、怒っちゃった。だから、あんまり言いたくなかったんだよね。それに、本当はさぁ───俺が君たちにこの話をしてるの、アイツには内緒のはずだったんだけど────」



湊はふっと言葉を区切ると、視線を俺の斜め後ろ、暗がりのドアへと向けた。





「────ねえ。人の話を盗み聞きするなんて、悪趣味だと思わない?……由良。」


「……は?」


湊の視線を追うように、俺がハッとして振り返った、その瞬間だった。


────薄暗い影から飛び出してきた由良が、凄まじい勢いで湊へと突進した。



「──っ、がは……っ!?」


ドンッ、と鈍い衝撃音が室内に響き渡る。


由良は湊の胸ぐらを容赦なく掴み上げると、そのままの勢いで壁へと激しく叩きつけ、完全にその身体を縫い付けた。




「ゆ、由良……っ!?」


あまりの急展開に、俺の声が裏返る。


振り返った視線の先──由良の背中からは、今まで見たこともないような、肌を刺すほど冷徹な殺気が溢れ出ていた。



「……”部外者”には、余計なことを話すなと言ったはずなんだけど。……話、聞いてなかった?」


はじめて聞いた、低く、地を這うような由良の声。

見上げるその瞳は、光を一切映さない、完全な闇に染まっていた。