君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~




「蓮さん、僕のことをそんな風に言っていたんですか……?」



驚いて目を丸くしてみせる。


けれど心の中では、あの無愛想な総長の口から自分の名前が出ていたという事実に、確実な手応えを感じていた。




「えっ、あ……ごめんなさい、私ったら急に! あっ、私は橘花桃華。十代目『月華』の姫よ」


「よろしくね」と、彼女は桜の花が咲くような柔らかな微笑みを添えて、上品に一礼した。



……その仕草には、暴力と血が支配するこの不良の世界にはおよそ似つかわしくない、純粋で無垢な気品が宿っていた。



みんなが彼女を”姫”として崇め、守りたがる理由が、この一瞬で分かった気がする。




「えっ、あ……っ、こちらこそ、よろしくお願いします……っ!」





私は慌てて、差し出された彼女の白い右手をそっと握り返す。






すべすべとしたその手のひらは、硝煙の匂いも、引き金の冷たい重みも何ひとつ知らない。


陽の当たらない過酷な世界を生き抜いてきた私とは正反対の、温かい光の世界で、たくさんの愛を注がれて育った少女の優しい体温を宿していた───。