すとん、と彼はその場にしゃがみ込んだ。
床の血溜まりも気にする様子もなく、ただ力なく膝を折って、自分の膝を抱え込む。
────その姿はあまりにも静かで、まるで最初からそこに誰もいなかったかのように、周囲の暗闇に溶けていく。
「…………アッチも、動き出したんだ。」
ぽつり、と彼の口から零れ落ちた声は、どこまでも平坦だった。
激しい焦りも、苛立ちもない。
ただ、感情の抜け落ちた冷たい言葉だけが、夜の静寂にぽつんと浮かんでいる。
何を考えているのか、その表情からは何も読み取れない。
どこか遠くを見つめるような瞳の奥には、底の知れない、深い、深い闇だけが広がっていた。
「お前……何か知ってるのか……!」
俺はしゃがみ込む由良の前に歩み寄り、その肩を掴んで強く詰め寄った。
……これだけの惨劇が起きて、由衣がこの場から跡形もなく消えた。
────由良が何かを隠しているのは間違いなかった。
詰め寄られた由良は、拒絶するでもなく、ただゆっくりと顔を上げた。
「……由衣は、無事だよ」
────ぽつり、と。
由良の口から静かに紡がれたのは、あまりにも意外な言葉だった。
その表情は、どこか遠い目をしていて、悲しそうにも、諦めているようにも見える、複雑な影を落としている。



