鼓動の音だけがうるさく耳元で鳴り響く。
永遠のようにも感じられる静寂の中、俺は死の訪れが遅れていることに違和感を覚えた。
「……………?」
恐る恐る、固く閉じていた目を開けると─────。
そこには、信じられない光景が広がっていた。
「由、良……?」
俺をかばう桃花のさらに前に、アイツがいた。
地味でオドオドしていて、喧嘩とは無縁そうなあの”由良”が……俺たち二人を守るように毅然と両手を広げて立っていた。
「…………」
驚くべきことに、あれほど冷酷だった男が。
だらんと、拳銃を持っていた腕を下ろした。
男の瞳に宿っていた暗い光が、目の前の”由良”を視界にとらえた瞬間、激しい動揺へと塗り替えられていく。
男の視線。
それはまるで、長年探し続けていた何かを、あり得ない場所で見つけてしまったかのような───戦慄した眼差しだった。
「ーーてーーーね」
男の顔を正面から見据え、ポツリと、何かを囁くようにつぶやいた由良。
─────そして、
「ーーーーーーーーーーー」
男の唇が、音もなく動く。
何かを、切実に問いかけるようなその動き。
……男にとって、由良が何者であるのか。
……なぜ、拳銃を下ろしたのか。
その真相を俺が知る由など、この時はまだ、どこにもなかった。
男はもう一度、由良を食い入るように見つめると───次の瞬間には、闇に溶けるようにその場から姿を消していた。
それと同時に、あれほどいた黒服たちも潮が引くように去っていく。
残されたのは、血の匂いと、重たい沈黙。
俺はただ、月明かりの下で立ち尽くすその背中を見つめることしかできなかった。
「蓮さん、橘花さん、だいじょうぶですか……!?」
先ほどまでの張り詰めた静寂を溶かしたのは、どこか心細げで、いつものおどおどとした”由良”の声だった。
あまりの急展開に、俺は地面に膝をついたまま、しばらくボーゼンと固まってしまう。
「いや、お前の方こそ………」
「よかっ、…………」
俺たちの無事を安心するように、弱々しく微笑もうとした彼の唇が、不自然なところで止まる。
「……………由良?」
ぐらりと、由良の体が力なく揺れた。
「────っ、おい!!!!」


