君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~



───”ミナト”
───”ナツさん”

………また、知らない名前が出てきた。


また、俺の知らない名前が増える。
"ミナト"というのは……たぶん、この男のことだ。


そしてもう一人。
その“ナツさん”ってやつも、当然のようにそこにいた人間なんだろう。


当たり前みたいに呼ばれている関係。
当たり前みたいに共有されている時間。

それが、じわじわと現実として浮かび上がる。



「………俺は、”蓮さん”なのに。」

「えっ?」


ほぼ無意識だった。
言うつもりなんてなかった言葉が、勝手にこぼれ落ちる。

それを聞いた由良が、初めてほんの少しだけ視線をこちらに向けた。


でも、その目は何も言わない。
ただ、静かに見ているだけだった。


「そいつは……呼び捨てで、呼ぶんだな」

「…………」


由良は何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ視線を落とす。

その沈黙が、妙に長く感じられた。


……気まずいわけじゃない。

でも、どこかが噛み合っていない。



チラッと、助けを求めるように由良が男の方を向いたその時。


「……へぇ」


ふいに、男――湊が小さく声を漏らした。

笑っているのに、さっきまでより少しだけトーンが低い。



「蓮さん、ね」

軽く繰り返すだけ。

なのに、その言い方だけが妙に引っかかった。