君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~




「…………蓮さん?」


小さな声。
風に紛れるくらいの、頼りない呼びかけ。


その一言で、俺は現実に引き戻された。





「……っ」


喉の奥が、わずかに詰まる。

………まずい。
今の顔のまま、こいつの声を聞くな。




このまま由良を見たら、お人好しなコイツのことだ、心配されるにきまってる。

………そんなの、男としてカッコわりぃだろ。



そう脳内で計算し、反射的に呼吸を整え、一拍遅れて視線を前に固定した。






「……何でもねぇ」


自分でも驚くくらい、平坦な声が出た。



「そう、ですか……………」


ぽつりと、まだ解せないような表情をした由良が、小さな声でつぶやいた。

その瞳は、困ったようにゆらゆら揺れていて。



「………行くぞ」


由良の手首を、軽くも強くもない、離すつもりもない程度の力でつかむ。

………ダメだ、せっかく二人きりなのに。



クソ野郎のせいで、気分が台無しだ。


ぎゅっと、モヤモヤする胸を振り払うように、由良の手首をつかむ手に力を入れる。



由良の体温が、手の中にある。

……それだけで、少しだけ呼吸が楽になった。