世界はどうして、こんなにも残酷で理不尽なのだろう。
目の前で震える肩を見つめながら、俺は喉の奥が焼けるような怒りに支配されていた。
こんなにも透き通った瞳をした奴が、どうして血の匂いのする過去に縛られなきゃならない。
……コイツは、なにもしてないだろ。
ただ純粋に兄貴を愛して、あの頃はただ、この穏やかな海を二人で眺めていただけだっただろうに。
神様なんて本当にクソ食らえだ。
この世界はあまりにも不公平が過ぎる。
"弱肉強食" "優者劣敗" "適者生存"
力がなければ奪われ、弱ければ消される。
そんな獣じみたくだらない理論が平然とまかり通るこの世の中が、俺は反吐が出るほど大嫌いだ。
「それで、僕………っう、……」
由良の掠れた声が、堪えきれずに漏れ出した嗚咽に混じって途切れ途切れになる。
あの日、この場所で起きた過去の悍ましい残像に、今にもそのまま飲み込まれて消えてしまいそうな、あまりにも小さな背中。
────俺は、自分の拳を白くなるほど握りしめ、静かに、けれど確実にひとつの覚悟を決めた。
「………決めた」
「え、っ………?」
今まで俺が上を目指してきた理由。
この汚い裏の世界で生き残るために、立ちはだかる他人を容赦なく蹴落としてでも力を手に入れようとしてきた理由。
────全部、桃華のためだと思っていた。



