「兄とはよく一緒に遊んだりして、僕のことを可愛がってくれたし、僕も兄のこと、大好きだったんです………」
ぽつりぽつりと紡がれる静かな声が、寄せては返す夜の波音の中に優しく溶けていく。
その過去形の“大好きだった”という歪な言葉が、なぜか俺の胸の奥に、ざらりとした妙な引っかかりを残していった。
語られているのは優しい記憶のはずなのに。
……どこか遠くて、今のこいつとは違う世界の話みたいで。
チリ、と胸の奥が小さく焦げるように焼けて、俺は何も言えずに黙って由良の言葉を待った。
「それでまあ、蓮さんみたいに、実は僕も小さい頃はよくこの海辺に来ていたんです。」
「そうなのか?」
「はい。まあ、運悪く(?)一回も顔は合わせませんでしたけどね。」
クス、と由良は自嘲気味に笑う。
──マジ、か。
俺たちは、ずっと昔から同じ場所に立っていたんだ。
同じ冷たい潮風を浴びて、同じ形の波を、すぐ近くで見つめていたかもしれないのに。
ほんの少しだけ時間が違っていれば、あるいは、ほんの少しだけ出会う順番が違っていれば。
俺たちはもっとずっと前から、こうして当たり前のように隣同士にいた可能性があったってことか。
───海から吹き上げる潮風が、やけに冷たく火照った頬を撫でていく。



