君は、狂愛の檻の中 ~偽りの君に恋をした~





────そのとき、
耳の奥に、別の声が蘇る。



──『元気そうで、よかった』


優しくもなく、温かくもない。
なのに、どうしても捨てられなかった声。




あの日、月華を襲ってきた集団の中で見た影。

蓮さんに向けられたあの冷たい銃口の先に立っていたのは、間違いなく“あの子”だった。

髪も声も、変わっていたのに。


それでも分かった。
生まれた瞬間から同じ鼓動を持っていた相手を、間違えるわけがない。



(……九条の、ところにいる)


喉の奥が痛い。

あの子は、まだそこにいる。
あの男の世界の中で、呼吸をしている。

選んだんじゃない。
選ばされたまま、そこにいる。


そう思った瞬間───胸の奥が、別の熱で満ちた。


憎しみじゃない。
もっと厄介なもの。

どうしようもなく、捨てられないもの。







「────ボス、この件は私に担当させてください。……九条は、私が必ず滅ぼします」


気づいたら、口が動いていた。
静かな声だった。


でもその中身は、もう決まっていた。


九条を殺す。
それは変わらない。

───でも、それだけじゃ足りない。


”◾️◾️"


あの子がどこにいようと。
どんな闇の中に沈んでいようと。



…………待っててね、◾️◾️。
私がきっと、あなたを連れ戻すから。


壊れていてもいい。
汚れていてもいい。

………それでもいいから。


せめて一度だけは、ちゃんと目を合わせたい。







月明かりが差し込む。
影が、地面にゆっくりと伸びていく。


それはまるで、獲物を狙う烏の形をしていた。

───静かに、確実に。
もう戻れない方向へと、私を引きずっていく影だった。