終わらない物語を君へ

 そんな、ある朝のことだった。

 まだ少し肌寒い春の風がカーテンを揺らす中、
 みどりが目を覚ますと、キッチンから妙な音がした。

 ――バチッ。

 続いて、焦げたような匂い。

 「……え?」

 寝ぼけ眼でキッチンへ向かうと、そこには真剣な顔の蓮がいた。

 フライパンの中では、黒くなった卵のようなものが、無残な姿で横たわっている。

「おはよう、みどり」
 蓮は少し焦げた手を振りながら、照れたように笑う。

「僕、みどりみたいに“おいしいご飯”を作ってみようと思ったんだ。でも、難しいね……」

 みどりは思わず吹き出した。
「……それ、卵焼き?」

「うん。これ、卵だよね?昨日テレビで見たんだけど、なんか違う」

 コンロの周りには、卵の欠片と、使いかけの調味料たちが並んでいた。
 でもその光景が、なぜか可笑しくて、愛おしかった。

「今日はバイトないでしょ?」
「うん」
「じゃあ、私が大学から帰ったら、一緒に買い物に行って、ご飯作ろうか」

 蓮の表情がぱっと明るくなる。
「本当?やった!今度こそ焦がさないようにする!」

 その言葉に、みどりの胸がまたトクンと跳ねた。
 ――もう、やめて。そんな笑顔向けないで。

 『一緒にご飯を作る』
 ただそれだけの約束なのに、どうしてこんなにも幸せなんだろう。