終わらない物語を君へ

 みどりは大学に行ってしまった。

 どこにも行かないで家にいてと言われたけれど…
 1人の時間は長かった。

 何をしてもいい――そんな初めての感覚に、蓮は戸惑っていた。

 普段の小説の世界では、何もかもが決められていて、考えなくても物事が進む。
 でも、今は違う。自由なのに、何をしたらいいのか、まるでわからなかった。

 そんな時、蓮の目にみどりが置いていったメモが映った。

「暇なときにやること」

 ざっと目を通すと、そこにはいくつかの指示が書かれていた。

 『テレビをつける』

 テレビって、これか?
 蓮はリモコンの前で少し首をかしげる。
 小説の中の世界では、テレビはもう勝手についているものだった。
 だから、自分でつけたことなど一度もない。

 慎重に、棒のようなリモコンを手に取り、ボタンを押す。

 画面がぱっと明るくなり、色と音の洪水が部屋に広がる。

 蓮は小さく驚き、少しだけ笑った。

(……ふむ。人気のメロンパン…みどりも好きかな?)

 テレビの光に照らされる部屋で、蓮はふと、みどりの顔を思い浮かべる。

 目の前にいないのに、心はなぜか温かくなる。

 あの笑顔を思い浮かべるだけで、退屈だったはずの1人の時間が、少し特別に感じられた。