日曜。

 宗介は自分の部屋で宿題をしていた。

 算数のその宿題はプリントで、熱心な先生がいつも出すものだ。

 最後の問題は、いつもクラスで宗介と美風しか解く人が居ないほど難しい。

 恋の事が気になったが、謝っても許さない、だってあいつは意味を分かってないんだから、と宗介は思っていた。



 プルルルル、と小さな電話の音がして、宗介は顔を上げた。

 一階で母親が電話に出る声がしたのを聞きながら、宗介は問題を解いていた。が、母親はすぐに宗介を呼んだ。


「宗介、お電話よ」



 宗介は勉強机の椅子を立つと、早足でダイニングへ向かった。



「はいもしもし。」



 宗介が受話器を取ると、相手は意外な事に美風だった。


『もしもし上野?』


 宗介は美風を嫌だ、と思う前に、切迫した声の調子にすぐ気が付いた。



「何か用?」

『あのさ、新田さんそっち居る?。新田さんのママが、上野の家には居ないみたいだったって言うから。』

「は?」

『居る?居ない?』



 美風の声は挑発とは違っていた。

 宗介は答えた。



「来てない」

『新田さん、一昨日から家出してるらしいんだ。新田さんのご両親が探してるけど、まだ戻ってない』

「!」

『上野んとこに居ないんだ。じゃあ。それだけだから。』



 受話器を持った宗介は呆然としてその場に立ちつくしていた。