学校から帰った恋は、いつもの様に宗介の家へ向かった。
チャイムを押すと靴下のまま宗介が出て来て、リビングへ恋を通した。
宗介の家のリビングはいつも綺麗で明るい。
狐用の空のケージが窓際に片付けられている。
「恋、子狐の展示って、不用意に人に言うなよね」
ダイニングで急須にコポコポとお湯を注ぎながら、宗介が言った。
「そういう所からあやかしだってバレるんだよ。お前が気をつけないから肝が冷える。駒井にお前の秘密が知られたらどうするんだよ?。」
「大丈夫だよ。」
「全く。お前は警戒しなさすぎなの。馬鹿なんだから。」
宗介はコップにお茶を2人分注ぐと、恋の好物のお菓子と一緒にお盆に乗せてリビングへ運んだ。
「樋山とお前って、なんでこの頃一緒に遊ぶの?」
宗介はソファに腰掛けながら、両手でお茶を飲んでいる恋に聞いた。
「別に?」
「別にって何。何で仲良くしだしたのか言えよ。まったくどうかしてる、あんな奴と遊ぶなんて。もしあやかしって事を逆手に取られてたらすぐ言えよな。」
「言われてないよ。良い人だよ、樋山くん。」
「……。お前にそういう気がなくても、あっちはそのつもりなんだから、考えろよ。あーあ、嫌な奴。」
恋は宗介が美風を嫌うのが分からない。
あの告白以来、恋と美風はかなり仲良くなっていた。
宗介は恋に何かとガミガミ厳しかったが、美風は恋にいつも優しかった。
人前で狐に変身する事について2人とも喧しかったが、美風は宗介の様には脅したりしなかった。
コップをテーブルに置いて、恋は、鞄から、この間撮って現像したばかりの美風と撮った写真を取り出した。
「何それ。」
後ろから宗介が写真を覗き込んだ。
写真には、広い家の庭のぶらんこに並んで座る恋と美風が映っていた。
2人は仲睦まじそうに、手を繋いで笑い合っている。
最後にそうやって宗介と恋が仲良く手を繋いだのは大分前だった。
大きくなってから恋とそういう風に手を繋ぐ事に、宗介は密かに憧れていた。
「樋山くんのお母さんが撮ってくれたんだ。」
恋が言った。
宗介は苛立ちを抑えてお茶を一口飲んだ。
「ふーん。お似合いの2人とでも思ってるんじゃないだろうね?。」
宗介が聞いた。
「似合うかなあ?」
恋が照れて頭をかくと、宗介は乱暴に飲みかけのコップを置いた。
忌々しげにため息をつくと、口を開いた。
「僕お前の無神経にはもううんざり。」
「何が?」
「何が、じゃない。」
「何で怒ってんの?宗介」
ギロリと宗介が自分を睨んだので恋は怯えておどおどした。
恋にはちっとも、宗介の機嫌を損ねるつもりがなかった。
「な、何」
「僕もうお前とは口聞かない。」
冷めた声で宗介が言った。
「何でよ。」
「腹立つ。家に帰れよ。お前の顔見てたくない。見てるとイライラすんだよね。」
「おかしいよ、それ。いきなり。」
恋は困惑した顔をしていたが、宗介が手をあげるかもしれないと思って、消沈して写真を片付けた。
恋はリビングから出てこそこと玄関へ向かった。

