前庭の花壇を通って校門を出て、理央と分かれると、通学路を歩きながら宗介が口を開いた。



「恋、今度のキャンプの最中、狐になったりしちゃ駄目だからね。」


 恋は首を傾げた。



「キャンプ場で狐が出たら、クラス中大騒ぎだ。人に戻るタイミングを間違えて、お前があやかしだってバレたらどうするの?。絶対に変身はしちゃ駄目だからね。」

「大丈夫だよ、多分」

「多分じゃなくて。子狐の姿のまま食べたり、バスに乗ったりする訳にはいかないだろ。不注意ったらない。お前はあやかしなの。ちゃんと弁えろよな。本当に。」

「……だって、狐なんだから」



 恋は困った顔で言った。



「ったく。お前はどうせ山で変身したがると思った。先に言っとく。あやかしは怖がられるし、驚かれるの。僕以外にお前が狐の子だって知られちゃ駄目だからね。」

「え、でも」

「でもも何もない。狐になるのは僕んちだけでにしなっていつも言ってるだろ。大体、おばさんも甘すぎるんだよ、お前に。叱らないからそういう風に好き放題するんだ。いつもいつも外で変身して心配させて。」

「……」



 宗介はしかめっ面で言った。



「まったく言う事聞かない馬鹿狐なんだから。約束。お前はキャンプ場で変身はしない。はい、返事。」

「……」

「返事。こら。」



 宗介に睨まれた恋は、黙ったまま上を見上げた。

 民家の通りの水色に澄んだ空を、小鳥が一羽、塀の上から羽ばたいて飛んでいく。

 恋は、狐の姿で山を駆け回るのを内心楽しみにしていた。

 宗介に言われなければ、もちろん恋は、キャンプ場で子狐の姿になって理央達にじゃれて過ごすつもりだった。


「も・し・もキャンプ場で狐が出たりしたら、ただじゃ置かないからね。」

 
 宗介は恋を脅す時にする声音で凄んだ。