見えない君は大切な人


一気に教室が色づき、動き出す。


みんなが楽しげに話す中で、私はまだ、さっきの違和感をひきずったまま、隣の机をちらちらと見ていた。


そこにはまだ、誰もいない。


「白石、また教科書忘れてるし」


前の席の男子がくすっと笑いながら言う。誰もいない隣に向かって。


まるで、そこに誰かが実在しているかのように。


「てか、今日こそ部活の話すっからな?逃げんなよ」


もう一人の男子が近づいてきて、何気なくその席の背もたれに手をかけた。


だが、椅子は引かれず、彼はそれ以上その席には触れなかった。


代わりに笑って去っていく。まるで、見えない誰かがそこに座っていると知っているように。


私は瞬きもせずに、そのやりとりを見ていた。


見えない。聞こえない。けれど、確かにそこにいることになっている。


不安が、じわじわと首元まで迫ってくる。


私だけが、知らないことがある。