「誰もいないのに、みんな話してる……」
目を閉じて、深呼吸をしてみる。
でも、その誰かの存在は消えなかった。
静かに、私の内側にずっと張り付いていた。
私はゆっくりとその席に腰を下ろし、周囲の笑い声に耳を傾けた。
けれど、隣の空席だけが冷たくて、遠くて、確かにそこにいるのに届かない気配を放っていた。
***
最初の授業は、現代文だった。
先生の声は穏やかで、板書の字も整っていて、教科書の内容もすでに知っているようなものばかりだった。
それなのに、私はほとんど集中できなかった。
視界の端にずっと映り込む空席。
そこに、何かがあるような気配がしてならなかったからだ。
最初は、気のせいだと思った。
でも、ある瞬間に確信に変わった。
ふと横を見たとき、そこに——教科書が置かれていた。
さっきまでなかったはずのそれが、静かに机の上に鎮座していた。

