「あ、やばいよはるちゃん!遅刻する!!」
「そう、だね。」
こっちを見ていた瞳の焦点がすっとずれていく。そして私の斜め後ろで止まった。
「蒼真~おまえも遅刻じゃーん」
そうま、その声につられ後ろを振り向いてみた。
黒髪の前髪がさらりと風に揺れて、長い睫毛が伏せられている。
どこか影のある横顔――どこかで、見たような気がした。
けれど、次の瞬間にはもう、霧のように消えていた。
「え……」
私は、思わず足を止めて、彼が立っていたはずの方向を見つめた。
だけどそこには、誰もいなかった。
空白みたいにぽっかり空いた場所。

