教室のざわめきが遠ざかるにつれて、自分の呼吸の音だけがやけに大きく聞こえる。下駄箱のある一階へと向かう階段を下りながら、
私はずっと考えていた。
——白石蒼真。
名前は聞いた。みんながそう呼んでいる。
でも、姿は見ていない。声も聞いていない。
けれど、誰も彼のことを不思議に思っていない。
私だけが、何も知らない。
そんな風に思えてしまうことが、妙に胸にひっかかっていた。
下駄箱に着くと、私の靴はすでに整えられていた。
まるで誰かがそろえてくれていたように。
いや、気のせいだ。今朝、自分できちんと揃えていたのだろう。
靴を取ろうとしゃがんだときだった。
一枚の紙が、目に入った。
最初は誰かの忘れ物かと思った。
でも、その紙は明らかに“私の下駄箱”に差し込まれていた。
小さく折りたたまれていて、手紙のようだった。

