魔法で恋を操る女になった私は、すべてを奪った帝国に復讐する

 ざっ、ざっ、と足音が近づく。

 刺客たちだ。崖から落ちて死んだはずの私を見て、一瞬、動きを止めた。

 「おかしいな。あの高さから落ちて、生きてるなんて」

 「けど――顔が‥‥違う‥‥?」

 私はゆっくりと立ち上がった。

 内側から何かが湧き上がってくる。これは魔力。けれど、今まで感じたことのない濃密な奔流。

 瞳の中に炎が走ったのが分かる。空気が揺れ、目の前の男が唇を震えさせて、その場に崩れ落ちた。

 何の呪文もいらない。願えば、愛は思いのまま。

 「‥‥ねえ、私のこと、どうして殺そうとしたの?」

 微笑んで問いかけると、残った男が震えながら後ずさった。

 私は静かに一歩、また一歩と近づく。

 「あなたたちが捨てた“ただの見習い”は、もういないの」

 そして囁いた。

 「ここにいるのは、フィロメリア‥‥‥‥誰もが恋に落ち、そして滅びる、傾国の魔女よ」

 一目で恋に落ちた盗賊は、彼女を崇拝するかのように、その場でひれ伏した。





 足元はふらつき、喉は乾ききっていた。

 けれど私は歩く。這ってでも、生き延びる。

 フィロメアの力を‥‥この命を使って、血の一滴が枯れるまで、必ずあの王子と王女に‥‥地獄を見せてやる。

 その一念が私を前へと進ませた。

 霧が深まる峠道。視界の先で馬の蹄音が止まった。

 また追手かもしれないと身構えた。

 「‥‥こんなとこで何をしている?」

 その声に、私は顔を上げる。

 銀髪の青年が馬を降り、迷いのない手を差し伸べてきた。

 私の魔法が働いたのだ。

 その青年は私の事を何も聞かずに手を差し出してきた。

 その時、私は思った。



 その無言の手こそ、利用すべき“運命”だと。


 青年はユリウス。私を追放した帝国の隣にある小さな王国の王だった。