「リシェル・ノア。共謀の疑いにより、国外追放とする」

 私は目を見開いた。

 共謀? 証拠もなく?

 ただ、“傍にいた”というだけで?

 衛兵たちの手が私の腕をつかむ。

 抗議も、否定も、叫びも、すべてかき消されていく。

 「違う、私は‥‥私は何もっ!」

 だけど、誰も耳を傾けてくれなかった。

 目を背ける人々。見て見ぬふりの同僚たち。

 私の肩に重く乗った鎖だけが、“罪人”としての烙印をはっきりと物語っていた。

 そのまま、私は城門まで引き立てられる。

 鎖が引きずるたびに、足元の石畳に金属音が響いた。

 通りの人々が私を指差して笑った。

 「魔導師様の恋人らしいよ」「罰が下ったな」「ざまあみろ」

 そんな言葉が、耳にこびりついて離れない。

 振り返れば、石造りの階段の上に立つ二人の姿。

 黄金の髪をなびかせながら、ディラン王子とエヴァリン王女が私を見下ろしていた。

 冷たい瞳で、何も言わずに、ただ見ていた。

 そして、王子が口を開いた。

 「愚か者の末路は、いつだって哀れだな」

 その唇に、明らかな笑みが浮かんでいた。

 それは勝者の笑みだった。

 私たちの無力と、敗北と、人生の終わりを前にしてなお、

 踏みにじることを楽しむ者の――勝ち誇った微笑みだった。

 胸が裂けるように痛かった。

 涙は出なかった。

 あまりにも深い悔しさに、感情は凍りついていた。





 馬車を降ろされたのは、国境にほど近い、人気のない森の入口だった。

 見張りの兵士は無言で馬車を来た道へと戻し、振り返ることなく立ち去っていった。

 私はぼろ布のような外套をかぶり、湿った道を歩き出す。

 誰も見ていない。誰も助けてはくれない。

 彼の処刑台での静かな横顔が、何度もまぶたに浮かんでは消えていく。

 一体、私が‥‥彼が何をしたと言うのだろうか。

 彼が傾国の魔女の研究をしていたという理由だったけど、それはこじ付け。

 今まで認められてきたのが王子の公布で急にそんな事になった。

 彼と仲が良かったはずなのに‥‥そんなに王位につきたいの? 彼はそんなものに興味なんてなかった。


 それに王女エヴァリン。アレクシスが好きだったはずなのに、彼に拒絶された途端に、こんな事を‥‥。