その日、帝都に黒い報せが走った。

 アレクシス先輩が、国家転覆の陰謀に関与したとして逮捕された‥‥と。

 「そんなはず、あるわけない」

 何度つぶやいても、喉の奥が焼けるように痛い。

 だって、あの人は──誰よりもこの国を想っていた。

 魔法の研究に人生を捧げてきた、ただひたすらに真面目で、誠実な人だったのに。

 王家の第五継承者として、民からも兵からも厚く信頼されていた彼は、

 王位継承を狙う王子ディランにとって、最も“邪魔な存在”だった。

 そして、次期王となるためにディランが選んだのは、“抹殺”だった。

 捏造された証拠。

 王宮の命令。

 罪状は一切の調査なく読み上げられ、反論の機会すら与えられず、

 アレクシス先輩は、まるで物のように囚われていった。

 私がそれを聞いたのは、その翌朝だった。

 研究所の机の上に、先輩の筆跡で書かれた未完の研究ノートだけが、ぽつんと残されていた。

 そして、処刑の告知。

 処刑当日、私の手には何もできなかった。

 暴動も、嘆願も、ただの見習いの少女には叶わない。

 私は民衆に混じって、遠くからその瞬間を見ていた。

 絞首台の前、ただ静かに立つ先輩の姿。

 王家の黒装束を着た処刑人たちが、淡々と儀式を進めていく。

 「アレクシス・エルヴァン。国家反逆の罪により、死刑とする」

 読み上げられた声に、誰かが息を呑んだ。

 先輩は一言も発さず、最後まで何も語らなかった。

 彼の灰青の瞳が、遠くを見つめていた。

 その横顔を、私は一生忘れない。


 そして、次に呼ばれたのは私の名だった。