魔法で恋を操る女になった私は、すべてを奪った帝国に復讐する

 婚約が公になった日から、教室の空気が変わった。

 笑い声の裏に、棘のある視線。

 私の席のまわりだけ、ぽっかりと空白ができていた。

 「どうせ取り入っただけ」

 「そばかすが、調子に乗ってる」

 聞こえるように、誰かが呟いた。

 それでも私は、何も言わず席に座る。

 すると、扉が開いて先輩が入ってきた。まっすぐ私の隣へ来て、柔らかく微笑む。

 「おはよう、リシェル」

 その声だけで、私は救われた気がした。




 後で知った事だけど、彼には、実は王位継承権があった。

 そう聞かされたのは、私たちの婚約が公になった直後のことだった。

 「正確には第五位継承者、だから肩書きだけだよ」

 そう言って先輩は笑っていたけれど、私には十分すぎる肩書きだった。

 どうしてそんな大事なことを、今まで黙っていたのかと聞くと、先輩は少しだけ目を伏せて答えた。

 「僕が貴族として扱われることで、君まで窮屈な思いをするのが嫌だったんだ」

 ああ、この人はいつもそうだ。

 大事なことを、穏やかな笑顔で包んでしまう。




 婚約者としての幸せな時間‥‥それはあっと言う間に過ぎていった。


 来月には結婚式‥‥その時に全てが変わった。