魔法で恋を操る女になった私は、すべてを奪った帝国に復讐する

 それからアレクシス先輩が教壇に立つ時は、日に一回は私に問題を当ててきた。

 「へえ‥‥」

 私が問題を解くと、先輩は嬉しそうに頷く。

 日を追って問題は難しくなってきたけど、私は負けずに答え続けた。

 やがてただの見習い‥‥の私には手に余る問題になってきたとき、私は先輩の所まで行って分からなかった所を質問した。

 「‥‥やっぱりリシェルは凄いね」

 先輩に褒められるその度、私の胸がキュ‥‥となった。

 何日か、何週間か続いた後‥‥。

 私は気づいた。

 先輩に恋してる事を。

 この人は孤児院出身という事を全く意に介さない。私が向ける言葉や表情に答えてくれる。

 私は自分の気持ちを伝えたい‥‥だけど、もし拒絶されたら‥‥優しい笑顔で首を横に振られたら‥‥。

 今のこの心地よい関係がなくなってしまう。

 立ち直る事は出来なくなってしまう。





 そんな気持ちのまま一月が経った頃、魔導研究所に帝国のディラン王子と、エヴァリン王女が見学にやってきた。

 二人とも金髪碧眼‥‥おとぎ話の世界から飛び出てきたかのような雰囲気そのもので、教室中は誰もが、

 呪文にかけられたかのように魅了されていた。

 「いい感じのクラスじゃないかアレク」

 「そうだろう?」

 アレクシス先輩と王子は随分と親し気に話している。どうやら二人は昔からの知り合いのようだった。

 エヴァリン王女が先輩の隣に寄った。

 「ねえ、今日はこれから三人で食事にでも行きません?」

 「じゃあ、そうするかな」

 王女と先輩は随分と親しそうで‥‥私は二人が見つめ合う度に、心の痛みを押さえる様に胸に手を当てた。




 研究所での日課が終わったけど、今日、先輩は私室にいない事を知ってる。だけど、私は自然に足が向いていた。

 部屋の扉の前に立つと、誰もいないはずの部屋の中から声が聞こえてきた。

 “どうして? 私はこんなにあなたの事を好きなのよ!”

 王女の声が響く。

 “残念だけど‥‥‥君は良い友人なんだ”

 アレクシス先輩の静かな声も聞こえてくる。

 “それに、僕にはもう心に決めた人がいるんだ”

 “‥‥誰?”

 “‥‥リシェル‥‥後輩だよ”

 「!」

 私は息を飲んだ。

 “誰よ、それ!”

 「‥‥‥‥」

 そこから中ではまだ話が続いていたようだったけど、私は頭が真っ白になって何も聞こえてこなかった。

 ――心に決めた人がいる‥‥リシェル‥‥後輩だよ――

 先輩の言葉が私の頭の中をグルグルと回ってる。


 その一言が、こんなに嬉しいなんて‥‥。