二人きりになった来客用の部屋の中、沈黙の時間が流れていた。
 
 やがて、ユリウスがぼそりと呟いた。

 「‥‥で、今はどんな気分だ?」

 私は一瞬、問いの意味を測る。

 誰に聞いたのか。何についてなのか。けれど‥‥。

 「‥‥わからない。終わったはずなのに、心が空っぽで、少し寒い」

 復讐を果たした事で私に残っていたアレクシスが消えてしまったような‥‥そんな感じに襲われていた。

 言ってから、なぜこんなことを口にしたのか自分でもわからなかった。

 けれど、ユリウスは頷いた。

 「そうだろうな。復讐は刃物だ。振るったあとに残るのは、手の冷たさだけだ」

 私は彼を見た。その眼差しは、静かで、深い。

 「‥‥‥‥そういえば」

 ユリウスがふと、視線を逸らさずに言った。

 「お前、俺にも“魔法”をかけたつもりでいたな」

 「‥‥‥‥え?」

 どういうこと?

 「効かなかったぞ、最初から」

 「‥‥‥‥じゃあ、どうして、従ってくれたの?」

 彼はわずかに唇の端を上げた。

 「お前が面白かった。感情のままに暴れる魔女に見えて、実は誰より冷静に世界を見てた。

 俺はそういう奴が嫌いじゃない。それに‥‥俺は、命令には従わないが、価値ある提案は聞く主義だ」

 「‥‥‥‥」

 何も言えなかった。何も、返せなかった。