「覚えていないの? “愚か者の末路は惨めだな”──そう言ったわよね。アレクシスを処刑した朝。

 それとも、あなたにとっての死刑宣告は、いつもそんなに軽いのかしら?」

 ディランの顔が引きつった。

 「そしてエヴァリン王女。あなたはアレクシスの部屋に行って彼に迫った時、こう言ってた。

 ‥‥どうして? 私はこんなにあなたの事を好きなのよ‥‥って」

 王女が青ざめる。

 喉が動くのに、声が出ないようだ。

 ディランの目が、見開かれる。

 そして震えた声が、ぽつりと落ちた。

 「リ……リシェル……?」

 私は微笑む。

 「そうよ。あの時、あなたたちに全てを奪われた女。

 でも今、私はこうして──あなたたちを見下ろしている」

 同席しているユリウスは、黙って会話を聞いている。

 彼も溺愛の魔法にかかっている。

 聞いた所で、私に対して何かが変わるわけではない。

 「‥‥まさか‥‥そんな‥‥」

 ディランが呆然と呟く。

 隣で、エヴァリン王女は言葉も出ないほどに凍りついていた。

 王子の声は震えていた。

 顔には怒りも驚きもなく、ただただ、圧倒された男の目。

 最後の仕上げ。

 これで全ての復讐は叶うのだ。

 私の瞳が燃え上がる。今までにないほどに強い炎で

 溺愛の魔法が、静かに、確かに──ディランの心を縛った。

 「あ‥‥ああああ‥‥君が……君こそが、私の妻にふさわしい」

 ディランは突如、目を潤ませ、よろめきながら私の前に歩み出る。

 「帝国も、玉座もいらない。エヴァリンが憎いなら好きにしてくれ。君だけが‥‥欲しい!」

 「‥‥‥‥」


 膝をつくその姿に、私は眉ひとつ動かさなかった。