程なくして、私の思惑は描いた通りに進んだ。

 ヴェルゼストからの会談の提案を帝国はすぐに了承した。

 私はユリウスと共に、帝国に‥‥私を追放した国へと入った。



 煌びやかな会場の奥、ヴェルゼスト王・ユリウスの隣に私は控えていた。

 顔は仮面で覆い、名乗る名は“リュシアーナ”──それで十分だった。

 帝国からはディラン王子とエヴァリン王女が来ている。

 二人の視線が、入室した瞬間から私に絡みついていた。

 「美しい方ですね。どちらのご出身か?」

 ディラン王子の視線は、まるで値踏みするようだった。

 「遠い国の名もなき家の娘です」

 私は微笑んでかわす。

 「それにしては、目を離せない」

 王子が言い、隣のエヴァリン王女がわずかに眉をひそめる。

 「褒め言葉と受け取っておきましょう。陛下の御前では、誰もが誠実になるものですから」

 私がそう言って軽くユリウスを見ると、彼は小さく笑っただけだった。

 会談の中身は、ユリウスが淡々と進める。

 私は言葉少なにその場にいるだけ。

 それだけで、帝国側の要人たちはざわめき、視線と感情を私に集中させていく。

 私は仮面をつけて、外交の場に立った。

 名前も素性も伏せたまま、ただ静かに微笑むだけで──帝国の貴族たちは、次々と私に恋をした。

 金も情報も、私の一言を引き出そうと競って差し出される。

 ──見苦しいほどに。

 けれど、背後にいるユリウスは冷静だった。

 着々と国の駒を進めていく。

 私は踊り、彼は動かす。

 ――帝国の崩壊は、もう始まっている――


 それを確信した私は心の中でほくそ笑む。