私が目覚めたのは知らない部屋。そんなに広い部屋じゃないけど、家具の様子から普段は使わない来客用の部屋だと分かった。

 体を包む毛布は柔らかくて温かい。このままずっとこうして眠っていたい‥‥

 そんな気にもなるけど、もちろんそんな安寧を私は望まない。

 「‥‥‥‥」

 起き上がって窓から外を眺める。

 ここは少しだけ小高い丘の上にある大きな屋敷のようだった。遠くには町の大通りが見える。

 帝都と比べてそこまで大きな街でもない。

 ドアにノックの音が響いて、一人の若い男性が入ってきた。

 彼は私を助けてくれた人。

 淡い銀色の髪に、静かな灰緑の瞳。

 整った顔立ちなのに、どこか寂しげで──なのに、見るたびに心が揺れる。

 魔法が効いているはずなのに、私のほうが目を逸らしたくなる瞬間がある。

 それが、少しだけ癪だった。

 「森で会った時は驚いた。名前を聞いても?」

 「‥‥‥‥」

 フィロメアと名乗る事は出来ない。そしてリシェルという魔法見習いの少女はもういない。

 「‥‥‥‥リュシアーナ」

 私は適当な名前を答えた。

 名前はそれで良いかもしれないけど、理由はどうしたものか。

 「どうして森を彷徨っていたのかは分かりません。記憶が曖昧で‥‥」

 私は彼の瞳を見つめた。

 私の中の炎が燃え上がる。

 既に彼は私の魔法の虜‥‥説得する理由など考える必要もない。

 「そうか‥‥分かった」

 怒っているような彼の表情が緩んだ。

 こんな事で納得してくれるとは‥‥魔女の力は素晴らしい。

 「俺はユリウス。一応はここで王という事になっている。遠慮はいらない。落ち着くまでここにいるといい。

 何か必要な物があれば可能なものなら手配しよう」

 「ありがとうございます」

 それだけ言うとユリウスが部屋を出て行った。


 後に残された私は、彼の出て行った扉を見つめながら、状況を整理する。