―オリオンー

 「!」

 着信マークがすぐについた。相手はこのサイトを、今、見ているようだ。

 =うまく表現できませんが、私が面白いと思うのは、あんなにたくさんある星の一つが、

 そんなふうに動いているんだと感じられる所です。ずっと見てても毎日同じにしか見えなかったのに、

 夜空も動いているって知ることが出来て=

 「…………」

 その文章を読み返して、僕はしばらく手を止めた。

 …………夜空も、動いている。

 当たり前のことだけれど、その言葉が、妙に耳に残った。

 僕にとって星は、ずっと「動いているもの」だった。

 毎日少しずつ位置が変わり、見える角度が変わる。明るさも、季節も。

 でも、きっと多くの人にとって夜空は、ただそこにあるだけの風景なのかもしれない。

 その違いに気づける人……それが《迷い猫》なのだと思ったら、なんだか急に、その向こう側にいる人物が気になってきた。

 指先がキーボードの上でためらう。

 これまで僕は、誰ともSNSで会話をしなかった。

 深く関われば面倒になることもあるし、何より僕には話せることが限られている。

 でも、今は少しだけ聞いてみたくなった。


 =《迷い猫》さんは、星を見るのが好きなんですか?=


 送信した直後、少しだけ後悔した。

 返事が来なかったら、それはそれで少し寂しい。

 ……けれど。

 心配が長引く事なく間もなく通知音が鳴った。


 =好きというより、これまであまり意識していなかったのに、最近はよく空を見るようになりました。


 オリオンさんの投稿を読んでから=

 読み終えたとき、胸の奥がぎゅっとなった。

 僕の言葉が、この人に少しだけ変化を与えたのだ。


 =……そうなんですか。もしよければ、どんなときに空を見ようと思ったのか、教えてもらえますか?=


 返ってくるまでの時間が、やけに長く感じる。

 画面の向こうで、迷い猫はどんな顔をしているんだろう。

 窓を開けて空を見上げているのか、それとも僕と同じように部屋の中で画面を眺めているのか――。

 やがて、再び通知が光った。


 =うまく説明できませんが……。前は外を見るのが少し怖かったんです。でも、星のことを知ってからは、


 少しだけ窓を開けてみようと思えるようになって=


 短い文章だったけれど、その一行の向こうに、相手の暮らしや心の壁がうっすら見える気がした。

 僕は、もっとこの人の事を知りたいと思ってしまった。