その日は、結局オリオンにメッセージを送らずに終わった。
 
 流星群を見た直後は、胸の奥が熱くて、言葉にしようとしても上手くまとまらなかったし、

 何よりあの感動を中途半端な言葉で壊したくなかった。

 翌朝、カーテンの隙間から冬の光が差し込んでくる。

 目を開けると、昨日の夜の空が一気に蘇った。

 あの一面の星々、降るように流れた光の筋、息を呑むほどの静けさ……その全部が、まだ鮮明に心の中で輝いている。

 忘れないうちに、と机に向かってノートを開いた。

 白いページにペンを走らせながら、昨夜の情景をひとつずつ描き出していく。

 見上げた空の深さ、頬を撫でた冷たい風、足元の芝生の感触……そして胸が震えた瞬間。

 ……これを、オリオンに伝えたい。

 そう思っただけで、胸の奥からワクワクが込み上げてくる。

 きっと驚いてくれるだろうし、喜んでくれるに違いない。

 昨日は夜遅かったから送らなかったけど、今夜、星が出たら真っ先にメッセージを送ろう。

 あの流星群を、どんなふうに彼が見たのかも聞いてみたい。



 ペンを置いて、ふと視線を横にやると、部屋の壁のハンガーに制服がかかっている。

 埃を払ったばかりのその布は、少し硬いけれど、どこか新鮮に見えた。

 すぐに学校に復帰できるわけじゃない。

 けれど、先生と相談しながら、少しずつでいいから前に進んでいこう。

 昨日、あの丘の上で感じた世界の広さと美しさが、私の背中を押してくれている。

 クローゼットから鞄を取り出し、まだ使えるか確かめるように肩に掛けてみる。

 鏡に映る自分は、どこか少しだけ顔つきが変わったような気がした。

 ……ああ、今日は楽しみなことが待っている。

 オリオンに話すことも、これから始まる新しい一歩も。

 私はその思いを胸いっぱいに抱えながら笑った。


 
 心の中には、昨夜見た流れ星のように、希望の光がすっと弧を描いていた。