―迷い猫―
私は毎晩、《オリオン》の投稿をこっそり覗くようになった。
新しい投稿が上がっているかどうか確認するのが、眠る前の小さな儀式になった。
「今日は東の空に低く輝いていた」
その一文を見たとき、私は思わず立ち上がり、カーテンの端をつまんだ。
夜の冷たい空気が、細い隙間から部屋に入り込む。
外は静まり返っていて、街灯のオレンジ色の光だけが道路を照らしていた。
見上げた東の空は、星がいくつも瞬いているけれど、どれが《オリオン》の見た星なのかは分からない。
首を傾げて目を凝らしてみても、答えは見つからなかった。
結局、窓を閉めてベッドに戻る。
でも、不思議なことに、がっかりした気持ちはなかった。
画面の向こうで、誰かが同じ空を見上げている……それだけで、胸の奥に小さな灯がともるような感覚があった。
私はまだ、自分の「好きなこと」を見つけられていない。
外に出るのも、まだ怖い。
でも、《オリオン》の言葉を読むたびに、心の奥に波が広がる。
波はまだ小さいけれど、確かに私の中で動き始めている。
その夜、布団に潜り込み、そっと目を閉じた。
暗闇の中、星を探す《オリオン》の姿を、勝手に思い描いていた。



