見上げた星空に、奇跡が降る

      ―迷い猫―

 オリオンから「数十年に一度の流星群」の話を聞いた夜、胸が高鳴って興奮している自分がいた。
 
 テレビや写真でしか見たことのない光の川。

 それを、自分の目で……しかも、同じ時間に彼も見ている。

 その想像だけで、世界中の空気が少し違って感じられた。

 けれど、すぐに現実が頭をもたげる。

 私の家からは、流星群が昇ってくる方角に大きなマンションが立ちはだかっていて、空はほとんど見えない。

 見たければ、家から数分先にある丘の上の公園まで行くしかない。

 その公園は、小学生のころ友達とよく遊んだ場所だ。

 ブランコや滑り台の位置も、今でも思い出せる。

 けれど、最後に行ったのはいつだろう。

 中学に入ってからはもう一度も足を運んでいない。

 まして、引きこもってからは昼間ですら外に出られないのだから、夜なんて……。

 たった数分の距離でも、私にとっては途方もない遠さに感じられる。

 暗い道、足音だけが響く坂道、ひんやりした外気……その全部が胸を締めつける。

 行けるだろうか。

 途中で足がすくんで引き返してしまわないだろうか。

 そんな弱気な考えが頭をよぎるたび、ため息がもれる。

 だけど、すぐに彼の言葉が浮かぶ。


 =もし外に出たいと思ったとき、その気持ちは大事にしてほしい=


 あのとき胸に染み込んだ声が、また私を支えてくれる。

 今度こそ、その「出たい」という気持ちを叶えてみたい。

 机の上のカレンダーに目をやる。

 十日後の夜、赤い丸をつけた。

 数字の横に、小さく「流星群」と書き込む。

 不安は消えない。

 だけど、もし本当に公園まで行けたら、きっと真っ先に彼に伝えよう。

 同じ空を見たと胸を張って言えるように……。


 まだ怖いけど……。