―オリオンー
熱が下がり、咳もようやく落ち着いた。
まだ体は重いけれど、パソコンに向かえるくらいには回復している。
久しぶりにSNSの投稿画面を開きかけて、手が止まった。
……先に投稿してしまっていいのか?
星の観測記録を普通に上げれば、それはそれで「無視していた」ように見えるかもしれない。
やっぱり、先に彼女へ連絡すべきだろう。
けれど、どう言えばいい?
この数日、僕は病気でまともに動けなかった。
それを正直に伝えれば、彼女はきっと心配してくれる。
でも、それは本当に彼女のためになるのか――。
迷い猫は、ようやく外に目を向け始めたばかりだ。
あの夜、自分のことを打ち明けるのにどれだけ勇気がいったか、僕は知っている。
そんな彼女に、病気で寝込んでいたなんていうネガティブな話をしたら……
せっかく開き始めた扉を、また閉じさせてしまうかもしれない。
僕はあくまで《オリオン》だ。
現実の岡崎晴翔ではなく、夜空を案内する光。
彼女にとって、暗闇の先で迷わないための目印。
その光が弱って見えたら、彼女はどう思うだろう。
……きっと、不安になる。
だから言わない。
もちろん、嘘はつきたくない。
けれど、すべてを話す必要もない。
僕ができるのは、以前と変わらない姿でそこにいることだ。
キーボードに手を置く。
短い挨拶から始めよう。
数日ぶりの光を、彼女に届けるために。
何度も打っては消してを繰り返し、結局、一番シンプルな言葉に戻ってきた。
=こんばんは。少し間が空きましたが、また観測できるようになりました=
送信ボタンを押したあと、指先がじんわりと温かくなる。
数日間、僕の中で重く垂れ込めていた雲が、ほんの少し晴れた気がした。
けれど……もし、彼女に「どうして今まで返信がなかったんですか?」と聞かれたら。
なんと答えればいいのだろう。
病気で動けなかった、なんて正直に言えば、きっと彼女は心配する。
だけど、その心配は、彼女が外の世界に手を伸ばそうとする気持ちを鈍らせるかもしれない。
だから僕は、答えを用意しておこうと思った。
病気のことには触れず、ただ「少し忙しかった」とか「観測ができなかった日が続いた」と言えばいい。
それで十分だ。
僕はあくまで《オリオン》でいるべきだ。
現実の岡崎晴翔ではなく、夜空を案内する光。
彼女の闇の先で、迷わないように輝く目印でいたい。
画面を閉じようとしたとき、ふと手が止まった。
もう一行、加えたくなった。
=今日の夜は、南の空がきれいです。よかったら見てみてください=
それは、ただの天体観測の誘い。
でも、僕と彼女を再び同じ空に繋げるための、大事な一言だった。
送信を終えると、窓辺に歩み寄る。
冬の空気がひんやりと頬に触れる。
熱が下がり、咳もようやく落ち着いた。
まだ体は重いけれど、パソコンに向かえるくらいには回復している。
久しぶりにSNSの投稿画面を開きかけて、手が止まった。
……先に投稿してしまっていいのか?
星の観測記録を普通に上げれば、それはそれで「無視していた」ように見えるかもしれない。
やっぱり、先に彼女へ連絡すべきだろう。
けれど、どう言えばいい?
この数日、僕は病気でまともに動けなかった。
それを正直に伝えれば、彼女はきっと心配してくれる。
でも、それは本当に彼女のためになるのか――。
迷い猫は、ようやく外に目を向け始めたばかりだ。
あの夜、自分のことを打ち明けるのにどれだけ勇気がいったか、僕は知っている。
そんな彼女に、病気で寝込んでいたなんていうネガティブな話をしたら……
せっかく開き始めた扉を、また閉じさせてしまうかもしれない。
僕はあくまで《オリオン》だ。
現実の岡崎晴翔ではなく、夜空を案内する光。
彼女にとって、暗闇の先で迷わないための目印。
その光が弱って見えたら、彼女はどう思うだろう。
……きっと、不安になる。
だから言わない。
もちろん、嘘はつきたくない。
けれど、すべてを話す必要もない。
僕ができるのは、以前と変わらない姿でそこにいることだ。
キーボードに手を置く。
短い挨拶から始めよう。
数日ぶりの光を、彼女に届けるために。
何度も打っては消してを繰り返し、結局、一番シンプルな言葉に戻ってきた。
=こんばんは。少し間が空きましたが、また観測できるようになりました=
送信ボタンを押したあと、指先がじんわりと温かくなる。
数日間、僕の中で重く垂れ込めていた雲が、ほんの少し晴れた気がした。
けれど……もし、彼女に「どうして今まで返信がなかったんですか?」と聞かれたら。
なんと答えればいいのだろう。
病気で動けなかった、なんて正直に言えば、きっと彼女は心配する。
だけど、その心配は、彼女が外の世界に手を伸ばそうとする気持ちを鈍らせるかもしれない。
だから僕は、答えを用意しておこうと思った。
病気のことには触れず、ただ「少し忙しかった」とか「観測ができなかった日が続いた」と言えばいい。
それで十分だ。
僕はあくまで《オリオン》でいるべきだ。
現実の岡崎晴翔ではなく、夜空を案内する光。
彼女の闇の先で、迷わないように輝く目印でいたい。
画面を閉じようとしたとき、ふと手が止まった。
もう一行、加えたくなった。
=今日の夜は、南の空がきれいです。よかったら見てみてください=
それは、ただの天体観測の誘い。
でも、僕と彼女を再び同じ空に繋げるための、大事な一言だった。
送信を終えると、窓辺に歩み寄る。
冬の空気がひんやりと頬に触れる。



