見上げた星空に、奇跡が降る

  ―オリオンー

 体が急に重くなったのは、あの夜からすぐ後だった。
 
 ただの疲れだと思っていたけれど、熱はどんどん上がり、胸の奥で重い咳が止まらなくなった。

 望遠鏡の前に立つどころか、ベッドから起き上がることさえ出来ない。

 「岡崎くん、今日は安静にしててくださいね」

 朝の回診で、担当医がカルテをめくりながら言った。

 「数値が落ちてる。炎症反応も高いし、しばらく検査と治療を優先します」

 先生の言葉は淡々としていたけれど、その裏に「今は無理をするな」という強い圧があった。

 「はい……」と答えたものの、頭の片隅ではずっと《迷い猫》のことが離れなかった。

 やっと、彼女が自分のことを話してくれるようになったのに……ずっと既読無視を続けてしまっている。

 昼過ぎ、看護師さんが点滴の交換に来た。

 「熱、まだ高いですね。食欲は?」

 「……あまり」

 「そうですか。今日はしっかり水分を取って、あとは休むことだけ考えてください」

 「ありがとうございます」

 うなずきながらも、心の中は休むどころではなかった。

 SNSへの投稿はもう数日止まっている。

 彼女はきっと、不安に思っているはずだ。

 でも、パソコンの電源を入れる力が出ない。

 画面を見るだけで視界が滲み、指先に力が入らない。

 返事を打とうとしても、体の重さが先にきて、文章を考える途中で意識が遠のく。

 「岡崎くん、あまり無理しないでくださいね」

 夕方の検温で、看護師さんが心配そうに覗き込む。

 その声に、「無理はしない」と口では答えながら、胸の奥では焦りが募っていた。

 ……このままじゃ、せっかく繋がった糸が切れてしまう。

 夜、消灯後の暗い病室で、天井を見上げる。

 カーテンが閉められた窓の外には、きっと冬の大三角が輝いているはずだ。

 そして、その空を、彼女もどこかで見ているかもしれない。


 そう思うだけで、体より心が痛かった。