―迷い猫―

 私はもう何年も学校に通っていない。年齢だと高校二年……十六歳。

 引きこもるようになったのは、中学に上がったとき。
 小学生の頃から、ずっと一緒にいた友達がいた。放課後は一緒に本屋に寄って、買った漫画を公園で読み合った。

 あの時間は、私にとって当たり前で、永遠に続くものだと思っていた。

 でも、中学で別々の学校になった。新しい教室は、知らない顔ばかり。最初はぎこちなくも話しかけてくれる子がいたけれど、

 それもだんだん減っていった。気づけば休み時間は机に伏せ、時間をやり過ごす日々。

 視線が怖かった。誰かが笑っていると、自分のことを笑っているんじゃないかと勝手に思ってしまう。

 登校しようと玄関に立っても、足が動かない。視界が暗くなって、頭の奥でざわざわと音が響く。

 気づけば、私は闇の中に一人取り残されている感覚に捕まっていた。

 家に閉じこもる生活が始まると、先生や役所の人が訪ねてきても、布団にもぐって耳を塞ぎ、足音が遠ざかるのを待った。

 部屋には、小学生の頃に友達と一緒に読んだ漫画が数冊と、中学の進学祝いにもらったパソコンだけ。

 カーテンはほとんど開けられないまま。

 そんなある日、何となくパソコンを開いてSNSを眺めていたとき、一つのアカウントに目が止まった。

 星のことだけを書き続けているアカウント。

 「今日は淡い白」「昨日より輪郭がはっきりしていた」……同じ星でも毎日違う記録が並んでいた。

 その文字を追っているうちに、私は無意識にカーテンを開けていた。

 夜空は、思っていたよりも広く、静かで、でもどこか遠い。

 その星を探してみたけれど、結局見つけられなかった。

 気になって、その人――《オリオン》という名前――の人にメッセージを送ることにした。

 顔を合わせるわけでも、声を聞くわけでもない。嫌になればすぐに閉じればいい。それだけで、指先は軽くなった。

 「毎日ちゃんと星のことをあげるのは凄いですね」

 送信して間もなく、返事が届いた。


 =僕は好きなことをしているだけなので、たいしたことはないです=


 ……好きなこと。

 私には今、そんなふうに言えるものが何一つない。

 そっとカーテンを閉じ、部屋はまた闇に戻った。