―オリオン― 

 あの日から、彼女――《迷い猫》からのメッセージは途絶えていた。

 パソコンを開くたび、受信箱に何もないことが分かっていながら、つい確認してしまう。

 それでも、画面はいつも静まり返っていて、時間だけが過ぎていった。

 僕は後悔していた。

 あんな質問をしなければよかった。

 軽い気持ちで聞いただけなのに、きっと彼女にとっては触れてほしくないことだったのだろう。

 それをわざわざ引きずり出すようなことをしてしまった。

 そんなある夜。

 いつも通り観測を終え、データをまとめて投稿したあと、ふと通知のアイコンが光った。

 まさか、と思いながら開く。


 =こんばんは。久しぶりに空を見ました。今日は星がはっきり見えて、少し嬉しくなりました=


 ……迷い猫だ。

 数日ぶりに届いた彼女の文字は、それだけで夜空よりも眩しく見えた。

 =こんばんは。そうなんですね。今日は本当に空が澄んでますね=

 なるべく短く、穏やかな返事を心がける。

 もう二度と、余計なことは聞かない。

 彼女が自分から話したくなるときだけ、言葉を待とう。

 僕と彼女は星の話で繋がっているだけだ。

 だから僕のことも話しては駄目なんだ。

 出来るのは想像することだけ。

 画面の向こうにいる彼女は、どんな表情でこの空を見ているのだろう。

 その姿を想像しながら、僕はもう一度、望遠鏡を覗き込んだ。


 今夜の星は、不思議なほど近くに感じられた。