「読書週間ポスターの授賞式にいなかった?」

 中学3年生の登校初日、出席番号順で斜め前の席に座っていたコウタ君が、カナエを振り返って小首を傾げた。
 びっくりして思わず首を横に振ってしまった。

「あれ? 違った?」とコウタ君がまた首をかしげる。
 記憶を思い出しているのか、ちょっと上を見上げる仕草もカッコいい!!

 中2の頃も時々廊下で見かけてカッコいいなー、と思っていた。

 というか、去年、隣のクラスだったコウタ君を一目見るため、休み時間に3年生と1年生の女子たちが押しかけているところを目撃し、コウタ君という存在を知って以来、ずっと気になっていたのだ。

 学校のアイドル的存在。
 願わくば、来年一緒のクラスになれたらいいなー、と思っていたら、そうなって……。
 しかも、男女別の出席番号順で斜め前の席にいて。

(しかも私のことを知ってた! 奇跡っ!) 

 なのに、焦ってウソついちゃった……

「勘違いかな」とコウタ君は興味を無くして前を向こうとしている。

 まずい!
 せっかく仲良くなれるチャンスなのに!!

 なんとかしなくちゃ。
 なんとか。

 頭の中をフル回転して、読書週間ポスターの授賞式の話題を探す。
 コウタ君が興味を持ちそうな話を。

(ええと……)

 去年の冬休みの課題だった読書週間ポスターの授賞式は、春休みに町のホールで行われ、司会者から名前を呼ばれて壇上に上がり、賞状と図書券を貰った。

 コウタ君の作品は金賞。
 カナエは銀賞で、実はその時も斜め前にコウタ君は座っていて(カッコいいな~)と凝視……見つめていたのだ。

(そうだっ!)

「司会の人にコウスケ君って呼ばれてたよね」
「そうそう、あいつ思いっきし人の名前間違えてよー……って、やっぱいたんじゃん!」
「えへへ」
 くしゃっと笑った笑顔がまたまたカッコいい。

 こうしてカナエは、念願だったコウタ君と会話することに成功したのだった。

 その後は、せっかくのチャンスを逃すまいと頑張って、ことあるごとにコウタ君に話しかけ、なんとかコウタ君の友人枠に滑り込んだ。

 そんなカナエの頑張りを神様も見ていたのか、席替えで教室の席が離れてからも、理科の実験で同じ班になったり、修学旅行のバスの席が近かったりと何かと話すチャンスが巡って来た。

 コウタ君は芸術面だけでなく運動神経も抜群で、球技大会や体育祭なども大活躍。
 そのたびに「すごくカッコよかったよ!」と声をかけて、自分がコウタ君をカッコいいと思っていることを元気にアピールした。

 カナエが「カッコよかったよ」と話しかけると、いつもコウタ君は、ちょっと照れたようなはにかんだ笑顔をして、「そういやさー」と、さらりと話題を変える。
 それがモテる男っぽくてさすがだなーと思った。

 そのうちに、休み時間に教室で目が合うと、しかめっ面の後、ニヤっと笑ってきたり、給食のデザートにカナエが好きじゃないプリンが出たときに「ちょーだい」とコウタ君の方からやってくるくらいの仲になった。