それも、初恋。。

 サクライさんは「そうなのね」と、自分のことみたいに嬉しそうに笑った。

 その時ふと、春に窓際で咲いてた、紫の花が思い浮かんだ。
 泉とサクライさんが二人でのほほんと眺めてたいた、房状にポンポン咲き乱れる、いい匂いのしそうな、だけどちょっと自己主張が強い鮮やかな紫色の花。
 
 そういやこの便箋も、あの花にちょっと似ているな。
 
 窓の外で当たり前のように毎日ポンポン咲いていたはずなのに、いつの間にか散っていて、今は青い葉が生い茂っている。
 サクライさんはさっき、あの木を眺めていたんだな、と、思った。
 もしかしたら、今はあるはずのない花を眺めていたのかもしれない。
 あの木の名前は、何て言うんだろう。

「橘君、帰るところだったのよね。ごめんなさいね、老人の暇つぶしで引き留めちゃって」
「いや楽しかったっす。俺もサクライさんのおかげで……なんかスッキリしました。手紙頑張ってください。泉、絶対喜ぶと思うんで」

「ありがとう。おじい様の素敵なお話が聞けて、とっても楽しかったわ」

 にっこり和む顔で笑ったサクライさんが、ふと、何かを思いついたように尋ねてきた。