それも、初恋。。

「正直、自分の親とか祖父母の恋愛話とか、興味ないを通り越して聞きたくないっつーか。なんかこう、考えただけでぞわぞわするっつーか」
「確かに、男子ってそんな感じがするわね」
 サクライさんがうふふっと、笑う。女子は違うのか?と思いながら続ける。

「とにかく葵を止めようとしたんすけど、葵は両親が歳取ってからの子で甘やかされて育ってるから、言い出したらきかないんすよね。じいちゃん困るからやめろっつっても、全然言うこと聞かなくて」
 怒ればもっと面倒くさくなることは目に見えていて、ほとほと困り果てた。

「そしたらじいちゃん、ちょっと上を向くような感じで考え込んでから、言ったんです」
 葵としっかり目を合わせて、優しく諭すように。

「『ばあばがじいじの日常の景色だったからだよ』って」
「日常の、景色?」

 こくり、と頷く。

「朝起きて、ご飯を食べて、学校に行って、勉強したり友達と遊んだりして、家に帰って宿題して、テレビを見て、お風呂に入って、晩御飯を食べて、歯を磨いて寝る。そういう普通の日の日常の景色に、いつの間にか、ばあばも入っていたんだよ。もし、じいじの日常から、ばあばが抜けちゃったらどうなるのかなぁって想像したら、寂しかったんだよって。そういうじんわりした好きがあるんだよって、言ってました」

 聞きたい答えと違ったのだろう。
 葵は「なにそれー」と、一気に興味を失って、またスイカにかぶりつき始めた。
 俺もそん時は(じいちゃん、うまく逃げたな)としか思っていなかった。
 だけど。

「日常の景色だったから、かぁ……ステキね」
 サクライさんが道端の花みたいに、ひっそりした微笑みを向けていた。
 そのサクライさんをまっすぐ見返して、薄い瞳の中の自分と向き合う。

「俺にとっての泉も、俺の日常の景色なんです。抜けたら寂しくて、そういうじんわりした好きの、好きです」