能動的に女子と仲良くなるのは、案外難しい。

 同じクラスとはいえ、汐見泉とは席も離れていて接点がなかった。
 いきなり見ず知らずの女子に話しかけるというのは想像以上に難しくて、それをクラス替えのたびに当然のごとくやってのけていた直太を初めてすげぇと尊敬した。
 あいつのあれはチートスキルだ。

 時々、汐見泉と同じ小学校出身の女子たちが、数人のグループを作って「ねえねえ、橘君」といきなり話しかけてくる。
 この女子たちもチートスキルを持っているのか、と思ったら、なんか感心した。
 考えてみれば俺は、話しかけられた人と話す形で友達を作っていた。
 いつも受動的。つまり俺は直太をはじめとしたチートスキルのあるやつらに助けられていたんだなぁと思った。
 てことは、チートスキルあるやつらっていっぱいんじゃね?
 てことはそれってチートスキルじゃねーんじゃね?とか思いながら、教室の離れた場所で今日もバカやってる汐見泉を眺める。

 汐見泉は女子には珍しく特定のグループに所属していないっぽかった。でも、男女関係なしに友達がマジで多い。
 
 休み時間になると自分を呼ぶ友達の間をひょいひょい渡り歩いて、芸人のように大げさな動きで周囲を笑わせている。
 特にもこもこしたくせ毛ネタは鉄板らしく、頭を両手で最大限押さえてから一気に解き放つ技で同小出身の奴らの爆笑をさらっていた。

 そうして、チャイムと同時にやり切った顔で自分の机に戻ってくる。

(お笑い芸人でも目指してんのかな?)

 見ていて飽きないヤツだ。
 ちょっと直太に似てるかもなと思ったら。

「汐見ってさー、なーんか、オレと同じ匂いがするよなぁ。あいつ、人生損してそうだなー」
 直太自身も汐見泉にシンパシーを感じているらしく、「見てるとたまにせつない」と、マジで切ない顔で同情していた。

 たまにといえば、たまに、汐見泉と目が合うことがある。
 いつもなら女子と目が合ったりすると、そのあと笑いかけてくるとか、話しかけてくるとか、何らかのアクションが来たりするけど、汐見泉の場合、その先がなかった。
 すぐにふいと視線が逸れて、違う友達とのバカ騒ぎに戻っていく。

 たぶん目に映った俺のことを、教室の花瓶とか、いつから置かれてるのかわかんない黒板の隅の謎の飾りとか、そんな感じの、教室の中にある、ちょっとした風景の一部くらいに認識しているらしい。