「えっ??」
「いや、すげー睨みつけてくるから、なんか怒ってんのかなーって」
「……」
 まさかのコクる前にフラれパターンかと、一瞬壮絶にパニクったじゃないか。

 にしても、『ごめん』というフレーズの破壊力。
 やっぱ怖い。怖すぎる。
 さっきの「ごめん」で、一気に勇気が萎えた。
 心臓ががっちり凍り付いて、くちびるもちょっと震えている。
 やっぱりコクってフラれるって怖い……。

「マジ、どした?」と、橘が覗き込んでくる。
(ち、近い) 
 ドクドクと、今度は変な感じで心臓が熱くなる。鼓動が、皮膚を突き破る勢いで叩きつけてくる。

 やっぱり私は橘が好きだ。
 大好きだ。
 どんな形でもいいから、こうやってそばにいたい。当たり前みたいに。
 だから……。

 だから今なら、まだ引き返せる。

 ドクドクドク。
 今ならまだごまかせると、ヘタレの私が囁いてくる。

「ポメ?」

 ドクドクドクドク。
 私はヘタレで卑怯者だ。

 自分より格上の女子が橘の彼女になれば、橘からの「ごめん」を聞かずして諦められると、思っていた。

 今も思っている。
 てゆーか、それでいいんじゃない?と、思ったりもする。
 このポジションを、失いたくない。怖い。

 でも。

(負けるな自分。カナエちゃんの気持ちを無駄にするな!)