「ホスピス?」
 月曜日の朝、いきなり氷水をぶしゃっとかけられたような衝撃が走った。
 固まる私に、ケアマネの佐藤さんが残念そうに頷いている。

「もう随分前に決まっていたことなんですよ」

 ホスピスは終末期の患者さんが最期の時間を穏やかに自分らしく過ごせるように、苦痛症状を緩和ケアする施設、と、授業で習った。
 習ったけど頭がついていかない。

「うちは設備が整っていないから、仕方ないことなんです」

 それ以上、桜井さんについて佐藤さんは教えてくれなかった。
 SNS晒し防止のため、高齢者の個人情報は高校生に極力明かさないという規則がある。

「実はね、汐見さんを自分の担当にして貰えないかと、桜井さんの方から僕に打診があったんです」
「それは……どうしてですか?」
「さあ」と佐藤さんが顎をさする。
 ぽつぽつと無精髭が伸びている。
 どうやら夜勤明けのようだった。

「わがままを言う人じゃなかったから、何か、思うところがあったのかもしれませんね。今朝の朝食介助はいいので、汐見さんは桜井さんの部屋の最終点検をしてくれませんか。引き出しに私物が残っていないかなど確認してください。午後には新しい人が入室する予定なので」

 ホスピス、ホスピス、ホスピス、ホスピス。

 桜井さんの部屋へ機械的に足を繰り出しながら、ぐるぐると不吉な四文字が頭の中を巡っていた。

 なんで桜井さんが。
 どうして。
 意味が……わからない。