なんだかなーと思いながらも、カナエは、コウタ君と話すときにサバ子ちゃんを交えるようにした。
 すると、カナエの心の中に思いがけない変化が起きたのだ。

「コウタ君とサバ子ちゃんが喋っているところを見るとね、なんか、こう、もやもや~ってしたものが湧き上がってくるようになったの。それであれ? どうしたんだろう?って不思議に思って、そのうちにこれは嫉妬?って気づいたの。それでもしかして私、コウタ君のことが好きなのかもって思い始めて、思い始めたら急にコウタ君のことを意識するようになってね。意識したら好きって気持ちが風船みたいにどんどん膨らんでいったのよね」

 思えばそれまで、カナエがコウタ君に対して恋愛感情を抱かなかったのは、コウタ君がアイドルみたいな存在だったからだ。

「カッコよすぎて私とは絶対につりあわないと最初からあきらめていたのよ。でもサバ子ちゃんの乱入で、サバ子ちゃんには取られたくないって気持ちが芽生えてね。そしたら身の程をわきまえていたはずの欲望が顔を出しちゃったのね」

「それで……どうしたんですか?」
 ことによってはマズい展開になるなー、と、私はハラハラする。

「気づいてしまった恋心は止められないじゃない?」
 それならフェアに行こう。
 カナエはサバ子ちゃんに「実はあたしもコウタ君のことが好きなの。だからもう協力できない、ごめんね」と頭を下げた。

「……カナエちゃん、度胸ありますね。サバ子ちゃんはなんて?」
「へえーそうなんだーって冷めた目で笑って『じゃあね』って、いつもの友達のところに戻っていったわ」

「こわっ! てかそのあと学校生活無事でした?」
 思春期の恋愛のいざこざは、ねちっこい嫌がらせに発展しやすいのだ。
 それが女子という生き物で、女子のサガ、だと私は考えている。
 
「そこは、私もずるくてね」と、桜井さんはいたずらっぽく笑う。
 
「サバ子ちゃんに打ち明けるタイミングは、あと一週間で中学の卒業式って日にしたの。思った通り、サバ子ちゃんのグループからあからさまな無視と陰口があったけど、期間限定だったから受け流せたわ。彼女たちとは高校も別だったしね」

 なるほど、策士なカナエちゃん。カナエちゃんもやりおる。
 ひと安心すると無性に気になってくるのは……。

「それで肝心のコウタ君に気持ちは伝えたんですか?」